#08 別荘地の実態と課題:地方コミュニティ未来の縮図

「みんなの0円物件」では、これまで扱った物件のうち、その8割強がマッチング成立に至っています。

建物にどれだけ傷みがあろうとも(中には半壊しているような物まで)、日々新たな譲受人に受け継がれていく様子には、非常に驚かされているところです。

しかし、そんな状況でもマッチングに難航する建物があります。

それは別荘です。

別荘なだけあって、建物としてのグレードは決して悪くありません。にもかかわらずマッチングに至らない理由は、所有者変更時に管理組合や管理会社が求める負担金の存在です。

宮城県蔵王町の物件では、この負担金が500万円近くに及ぶケースもありました。

負担先内訳金額
不動産代金物件価格0円
管理会社温泉施設負担金330万円
管理会社温泉給湯負担金90万円
管理会社名義変更手数料14万5千円
管理会社温泉メーター取り替え7万7千円
合計442万2千円
所有者変更時の一時金負担が大きく、いまだ譲渡は成立していない

これらの負担に加え、所有権移転登記費用や不動産取得税などを考慮すると、取得時の初期費用として500万円ほどが見込まれます。

ただし、こういった負担金は管理組合側も法外に請求している訳ではなく、しっかり管理規定などに定められ、正当に行われているものです。

当該別荘地の管理規約(一部)

以前、物件調査に訪れたある別荘地では、現在まで建物が残っているのは敷地全体の約半分程度で、そのうち定住していたり定期的に別荘として使用されているのは更にその約半数。残りの半数は実質空き家となっているというものでした。

つまり現在も別荘として利用されているのは敷地全体の約1/4ということになりますが、例え利用者が1/4に減ったとしても、管理会社側は上下水道や電気などのインフラを提供し、道路を維持管理しなくてはなりません。

この点については管理組合側も経営に頭を悩ませているのが実情のようです。実際に、管理会社が経営破綻してしまったために、住民による自主管理を行っている別荘地も数多く存在しています。また管理費用の負担をめぐり、訴訟なども相次いでいます。

別荘地で起きているこの実態は、人口減少の局面でインフラ維持を課題とする、日本の地方に起きつつある姿を目の当たりにしたようでした。


高度経済成長期には、別荘を所有することはある種のステータスでした。

バブル期には、富裕層のみならず、ある程度収入の高いサラリーマンでも手の届く別荘が地方において開発されていました。それから約30年以上の月日が経ち、これらの別荘が相続される時期にさしかかったのと同時に、わが国の不動産の市況と不動産を持つことの価値観がすっかり変わってしまいました。

今も、軽井沢や熱海などの一部では別荘地として人気が衰えていなかったり、北海道のニセコのように新たな形で別荘地が誕生するような例もありますが、そうではない別荘については、相続人にとってお荷物となりつつあります。

今は廃れてしまった別荘地でも、かつてその地が開発された理由が必ずあります。その魅力を引き出すことができれば、新たな需要を掘り起こすことができるかもしれません。新しい価値観に対応した別荘・別荘地の在り方を提案していくことが求められていると感じています。

今、別荘地で起きていることは、今後日本の集落や地方都市で必ず起こりうる未来の姿を見据える良い機会であると考えられます。

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