#05 借地が生む「空き家銀座」の実情:地主の承諾が得られない

これまで当サイトには、「借地」上の「建物」を譲渡したいという相談がいくつか寄せられました。

「借地」と「建物」の関係を整理すると、「建物」は自分の所有であり、「土地」は他人の所有です。 すなわち、「建物の所有者」は「土地の所有者(地主)」から「地代を払って土地を借り、建物を建てる権利(借地権)」を得てこの「建物」を建築し、所有することができている状態です。 いわば、この「建物」は「借地権」と一体となっており、不動産業界ではこれを「借地権付き建物」と呼んでいます。

そして、この「借地上」の「建物」を譲渡したい場合、民法612条によって障壁が生じます。

賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない

民法612条 

「建物の所有者」は「地主」から土地を借りている「賃借人」であり、「地主」は土地を貸している「賃貸人」です。

建物に付いている「借地権」は「賃借権」です。 すなわち、借地上の建物を譲渡するには、地主の承諾が必要であると民法で定められています。

さらに、法的な根拠はないものの、「地主の承諾」として「承諾料」を求めることが慣行として行われており、このことが当サイトにおいてマッチング不成立の要因となってきました。 承諾料があまりに高額なためです。

これまでの実例として、以下のようなケースがあります。

  • 地代の坪当たり単価の100倍の額に相当する金額を承諾料として要請するもの
  • 土地の時価相応として数千万円に及ぶ承諾料を要請するもの

上記のケースでは、地主または建物の所有者のどちらかが相続によって所有者が変わっており、当事者間で日常のコミュニケーションはありませんでした。 また、建物の所有者側に地主の承諾料が必要という認識もありませんでした。 先代とは良好な信頼関係で契約を結んでいたのに、というような話しもよく聞きます。

「地主」の概念は江戸時代までさかのぼりますが、明治時代の地租改正が決定的な転機となりました。 地価を定めて高額な租税を課した結果、土地を所有できるのは裕福な層となり、大地主のようなものが誕生しました。 そして、「地主」と「土地を借りる人」という構図は、人口増加や高度経済成長を経て土地の価値が高くなることで長らく維持されてきました。 しかし、今日ではこの構図が変化しつつあります。

国内の地方都市には「空き家銀座」と呼ばれる、長らく維持管理がされていない空き家が数件から数十件密集している地域が存在しています。 これは、地主によるかつての権利意識を変えられず、結果として建物の所有者が売買や譲渡をすることができず、建物を放置してしまった結果の惨状です。

地主に代わり裁判所が承諾をする「借地非訟」という方法も存在しますが、裁判という形式をとることで地主との関係が悪化することは明らかです。 したがって、「借地非訟」を利用する人は少なく、一般的な解決策とはなっていません。

地方都市で発生しているこの「借地問題」について、現在のところ解決策は見いだされていませんが、借地上の建物を所有している人、またはそれを相続する可能性のある人は、今のうちから地主との間で締結された賃貸借契約の内容をよく確認しておくことをお勧めします。

この記事をシェアする
目次