#09 形骸化する法の改正と、その運用:ライフライン設置権の実例

令和3年の民法・不動産登記法の改正によって、所有者不明土地の解消や不動産に関するルールの大幅な変更が行われました。特に、相続登記の義務化や土地国庫帰属制度などが注目されていますが、「相隣関係の見直し」の中で「ライフラインの設備の設置・使用権に関する規律の整備」もされています。

具体的には、他の土地に設備を設置しなければ、上下水道・ガス・電気などのライフラインの供給を受けることができない場合に、導管などの設備を他人の土地に設置する権利や、他人の所有する設備を使用する権利が認められることになっています。

しかしながら、この新しい権利を活用しようとしても、現実には思わぬ障害にぶつかることもあります。実際、私たちが遭遇した案件でもそのような問題が生じました。

(具体的な案件概要)

今回対象とする不動産は、前面道路が私道となっています。持分はありますが、これまでのルールだと、他の私道持分所有者一人一人に説明し承諾の印鑑をもらい、全員分の「通行、掘削等に関する承諾書」を取得する必要があります。

しかし今回は、その通行掘削承諾がない状況です。
築年数が経過している物件のため、建替も踏まえ検討されていました。

私道所有者は少なくとも31名おり、相続が発生し海外在住の方、近隣でも連絡がつかない方など多く、掘削承諾を集めるのは現実的ではないと判断しました。

この件について、建築業者や自治体のライフライン担当課に、法改正によって通行掘削が不要になるはずだと主張したところ、従前通り通行掘削が必要だと突き返されました。

また、この法律の発行元である民事局に相談したところ、法的にはライフライン設置権が認められているものの、自治体の方針に従わなければならないとの回答が得られました。

こうした状況に対して、民事局に解決方法や支援を求めたところ、我々に指導権限はなく、残念ながら関係者は何も手助けできないとのことでした。

自治体には法改正に関する資料を配布しているものの、実際の問題に対処する方法や支援は提供されていませんでした。

このような経験から、法改正がある意味で形骸化していると感じざるを得ません。法改正が行われた目的や意義が十分に実現されていない状況があります。

私たちが直面したような問題が解決されるためには、法改正だけでなく、その運用や実施においても改善が必要であることを痛感させられます。

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