#04 農地売却が招く新たな課題:残された農家住宅の行方

前回、「空き家問題の裏に潜む農地ジレンマ」と題して、売れない農地が引き起こす空き家問題についてレポートしました。

今回はその対照的な問題として、農地が売れたことにより発生する空き家問題についてレポートします。

広大な農地の一角の公道に面した部分に、農業者の住宅(本稿では農家住宅と呼ぶ)が建てられている光景は、郊外に出ればよく見かけるおなじみの風景です。

通常、農地は農地法によって農地以外のものにすることが規制されていますが、農家が自身の所有する農地の一部を宅地として転用し住宅を建築することは、農地法第4条の申請に基づいて行われています。

農地の一角の公道に面した部分に、農家住宅が建てられている

しかしながら、農家の数は減少しており、1960年の605万戸から、2020年には174万戸と、実にこの60年で1/3にまで減少しました。

後継者不在などによる離農の場合、優良な農地は近隣の農家が引き継ぐことが一般的ですが、問題は農地に隣接する宅地と建物の取り扱いです。

農地を引き継いだ農家は、既に自身の土地に住居があり、さらなる宅地や建物の必要性はありません。また、宅地を農地に戻すための建物解体費用、土地の掘削・耕作費用と、それで得られる耕地面積を比べると到底割に合わず、敢えて宅地も引き継ぐようなことは稀です。

その結果、広大な田園風景に新たな空き家が発生し、散在する光景が生じています。

C農家・D農家の離農により農地はA・Bに引き継がれるが、宅地建物は引き継がれなず空き家となる

当サイトではこれまでに、同様の事例の空き家のマッチングを多数行ってきました。しかしながら、これはごく一部に過ぎず、わずか60年で430万戸もの農家が減少したことを考えると、まだまだ氷山の一角です。

何故、農家住宅の空き家は市場に姿を現さないのでしょうか。

以下は、実際に私たちが活動を通じて見聞きした事実です。

空き家の管理・処分の必要に迫られていないので放置している

市街地の空き家・空き地に比べ、放置することで起こり得る近隣への影響が少ないため、所有者本人が精神的な不安を感じず放置。監督する行政機関も近隣住民に影響がなければ対応の優先度は低い。

・経済的負担がないので放置している

上記のような管理に要する出費もなく、固定資産税も非常に少額もしくは免税となっているため空き家・空き地を持っていても経済的負担がないので放置。(※固定資産の課税標準額が土地30万円、家屋20万円に満たない時は課税されない。)

・所有者不明のため放置されている

農地は歴史が古いものが多く、何世代も前から相続登記がされておらず、法定相続人が増えすぎて特定が困難な場合がある。また、建物については、未登記であったり、建築する際に地方自治体の建築主事から法に適合しているかの確認を受ける「建築確認申請」の不要な都市計画区域外である場合が多く、自治体も正確に建物の所有者を把握していない場合がある。

農家住宅に絞った空き家数の統計は現在のところ確認されていませんが、全国的にかなりの数が存在することが推測されます。一方、当サイトで取り扱った農家住宅の空き家は非常に人気があり、これまでに掲載した物件は全てマッチングが成立しています。

農家住宅とその底地部分は農地法の適用を受けず、誰でも所有することができるため、その需要は全国に広がっています。二拠点生活としての住居や、釣り・写真・ツーリング等趣味のための季節拠点として活用されている実績があり、地元の人には無価値でも、市場を全国に広げれば、需要の幅が無限に広がることを実感しています。

いくら、市街地に比べて近隣への影響が少ないとはいえ、空き家が放置されている光景は決して気持ちの良いものではありません。人の営みがあれば少なからず建物やその敷地が管理されます。農家住宅に移住した人が、地域の町内会に加入したことによって、過疎が進む地域において、環境の維持保全に貴重な人材となった、というような例も実際にありました。

今後も、当サイトを通じて放置されている農家住宅の流通を促進していきます。

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